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2021.06.11 Fri

アンガーマネジメントから絵本へ。目まぐるしい今だからこそ考えたいこと。

大阪市立豊仁小学校(大阪)にお勤めの松下隼司先生へのインタビュー。

「楽しい先生」と「正しい先生」。

小田:季節は夏が近づいてきました。本日は、松下先生にお話を伺ってまいります。  まずは自己紹介をお願いします。

松下先生:今年で教員18年目となりました。現在は、大阪市立豊仁小学校で3年生の担任と生活指導主任を務めています。
 学生時代から演劇を始め、教員になる前から関西の小劇場で10年間活動をしていました。ショーをしたり、コンテンポラリーダンスに出会ったりと、とても充実した時間だったのですが、29歳の時に、教師として、子どもたちを惹きつけるような「授業」ができるようになりたいと強く思い、演劇活動をやめました。「台本がない授業ってすごい」、そう思ったからです。

小田:松下先生は、2018年11月に行われた「第4回全日本ダンス教育指導者指導技術コンクール」で文部科学大臣賞を受賞されています。ダンスがお得意でいらっしゃること、素敵です。

松下先生:それについて、実は私はダンスは得意でなく、音感もないんです(笑)。そうした自分でも、子どもたちがいかに楽しくダンスに取り組めるのかについて重点を置いて授業を考えた結果、それが賞につながったように感じています。

小田:小学校におけるダンス指導について、松下先生のお考えを教えてください。

松下先生:小学校におけるダンス指導は、一般的には、映像の動きの通りであったり、先生の動きの通りであったり、子どもたちには鏡写しのように真似をさせて、みんなが同じように揃うことを求めるものだと考えています。しかしそうした指導のとき、子どもたちが楽しそうな表情をしていないことに気づきました。「無表情で、身体だけが動いている」、そんな印象でした。
 そんな時に、アフリカンダンスに出会いました。見事に子どもたちみんなの動きがバラバラなんです(笑)。アフリカの子どもたちは、そのバラバラが認められ、ほめられる。一方で私たちの小学校のダンスでは、子どもたちは違った動きをすると怒られる…。「ああ、自分が間違ってたんやな」と気づきました。
 そこで、ケニア(アフリカ)の伝統楽器である「ニャティティ」と日本のよさこいソーランを融合させた「ニャティティソーラン」に出会いました。「ニャティティソーラン」は、自由でいい、バラバラでいい、みんな違う方がいいというのが大きなポイントです。今までみんなと揃えられずに叱られていた子や発達障害傾向のある子も認められる環境に変わりました。またさらにそれを他の子が見て、それなら自分だったこうできるよ!といってアレンジし始めたりと、今までとは全く違う雰囲気が自然と生まれてきました。

小田:ダンスと言われると、子どもたちがよく目にしているのはきっと、ジャニーズ等のアイドルが、ステージのようなライトがたくさんあたっているキラキラした場所で、衣装も整えて、動きもそろえて、俊敏に踊るものが多いような印象です。

松下先生:そういったダンスが「小学校」という場に合うのか、運動会等を想定すると「運動場で踊る」という機会にあうのか、疑問もありました。アフリカンダンスは、大地で力強く踊る姿が印象的で、まさに小学校の、運動場で踊るのにぴったりだと思いました。

小田:さて、少し視点を変えて、松下先生がお勤めになっている大阪府の教育の特徴や地域の特色などを教えていただけますか。

松下先生:比較的、大阪は家庭環境に課題のある家庭が多いように思います。生活指導上の問題も多いです。またスマホの所有率も高く、その影響か睡眠不足のため朝食をとっていない率も高く、不安定な状態で学校に来る子どもが多いです。ただ、表現活動に着目してみると良い意味でバラバラです。よく叱られていたとしても、たくましい子が多いです。
 その他、子どもたちからはよく「オチは?」を言われることがあるので、こちらが鍛えられることもあります。怒ったあとにも「オチは?」、生活指導の「オチは?」みたいに(笑)道徳の授業をしていても「また感動系の話やな」というように、子どもたちは「オチ」にまず目が向きます。

小田:子どもたちの「見通す力」が高いのかも、なんて思いました(笑)

松下先生:それとも関連して、大阪はやはり笑いが求められる地域だと思います。ただ、それについて学校現場としては「楽しければよいのか?」という意見もあります。
 先生側としてはそういう意見がありつつも、子どもたちには、楽しくないと言葉が入っていかない、という状況があるのもまた事実です。「楽しい先生」でないと聞く耳を持たない、「正しい」ことしか言わない先生のいうことには聞く耳を持たない、ということもあります。

小田:「楽しい先生」と「正しい先生」。これは考えさせられました。

アンガーマネジメント、怒りから意識をそらすこと。

小田:心苦しいニュースではありますが、大阪は新型コロナウィルス関連でよくお見掛けする地域でもあります。現在の学校での対応等、教えていただけますか。

松下先生:特に大阪市に限ってお伝えすると、5月末からようやく通常授業に戻りましたが、それまでは1日2時間授業が続いていました。しかも、そのうち1時間は家庭学習のプリントの確認、もう1時間は次の家庭学習のプリントの説明や連絡帳の記入などに追われてしまう状況でした。普通にこなしてしまうと、子どもたちにとって楽しい時間にはなりにくいのですが、それでもそこはやはり大阪の先生方なので、色々工夫して、先生と子どもたち、あるいは子どもたち同士でのコミュニケーションを図れるように努力しています。
 例えば、昨年6年生の担任をしていた時のことです。当時も今も基本的に接触は禁止なのですが、何とかして腕相撲や指相撲、手押し相撲ができないかと子どもたちと一緒に考えた結果、「ビニール袋」を使うことを思いつきました。そうしたら子どもたちは大喜びで、しかもそれまで消極的だった男子と女子が、進んでコミュニケーションを取るようになったんです。コロナを逆手に取って、今まであまりコミュニケーションを取っていなかった子どもたちが触れ合いをするようになりました。

小田:けがの功名と申しますか、まさにコロナという状況下だからこそ生まれたコミュニケーションに思います。
 コロナに関連することとして、コロナ禍では、これまで以上に教員のストレスが大きくなっていることも話題に挙がっており、ストレスマネジメントの重要性が言われています。松下先生はアンガーマネジメントの資格をお持ちとのこと。資格取得の経緯等をお知らせいただけますか。

松下先生:15年前くらいのことですが、ある児童に必要以上に怒ってしまったことがありました。自分自身もそこでとても反省し、このままではいけないと思いアンガーマネジメントの勉強をしようと思ったんです。資格を取ろうと思ったのは、資格を持つことで心にゆとりを持つことができるのではと考えたからです。怒りが込み上げてきた時でも、「自分は怒りをコントロールする専門家である」と思えることがワンクッションになって冷静に対応できるようになると思いました。

小田:アンガーマネジメントには色々なテクニックがあるかと思います。具体的なものを少しご紹介いただけますでしょうか。

松下先生:例えば、「1,2,3,4,5,6」と6秒カウントすることで強く怒りすぎて後悔することを防ぐ「6秒ルール」というものがあるのですが、これは学校の先生には不向きだと思います。学校ではそれどころではないことが多々あります。
 それよりも、私が役立ったのは「怒りから目をそらすこと」でした。例えば、私は家族の写真を職員室の自分の机に置いています。そうすると、何か怒りが込み上げてきた時に写真が目に入ると「ここで強く怒りすぎるともしかしたら家族に迷惑がかかってしまうかもしれない」と意識をそらすことができて、怒りすぎることを防ぐことができます。学校の中だとどうしても子どもたちと教員だけの空間なので、そこに自分の家族が入ると、家庭での自分という意識も入ってくるので我に返ることができます。
 他にも、教室の前に教育目標を貼るように、教室の後ろの黒板に自分の目標を貼るようにしています。「笑顔」とか「怒らない」とか決めて、かつそれを子どもたちにも伝えておきます。やはり子どもたちを怒るときにその目標が目に入るので、怒りから意識をそらして冷静になることができます。

小田:ここで、当たり前かもしれない視点を松下先生に今一度お伺いしたいのですが、「怒る」ことと「叱る」こと、この違いを教えていただけますか。

松下先生:「怒る」ことは自己満足です。それに対して、「叱る」ことは100%子どものために行うことです。
 特に若い先生の中では、怒ることと叱ることを混在されていたり、それらはしてはいけないことのように思われている方もいるかもしれません。しかし、「叱れない先生は子どもを不幸にする」、私はこう思っています。
 叱ることのできない先生は子どもたちから舐められてしまいます。いけないことはいけないと線引きをはっきりさせることは必要ですし、その際に叱るという方法を取ることは大切です。
 一方でベテランの先生になると、叱るよりも「諭る」、「語る」、子どもたち自身に考えさせるような導き方をします。さらにもっと経験豊かな先生は、叱るのでもなく、諭すのでもなく、たしなんでいます。たとえ子どもたちが不適切な発言をしても、その場を余裕をもって楽しんでいます。だからこそ、子どもたちがその教室にいることが心地よくなってしまうのだと思います。

小田:叱ることはとても重要な教育の方法である一方で、苦手な先生もいらっしゃるように思います。

松下先生:叱り方は自己流では習得できません。本や色々な講習等で一般的な「叱り方」を学ぶことは必要だと思います。また叱るにしても、学校現場を想定すると、一斉授業の中で叱るのか、個別に叱るのかは分けて考える必要があると思っています。
 個別で叱るべきことを一斉授業の場で行ってしまうと周りの子をほったらかしにしてしまうことになりかねませんが、いじめの芽に関わることは、私は一斉授業の中で全体指導するようにしています。いじめに関わること以外で叱るときには、なるべく短くすることを心がけています。特に発達障害の子は長い言葉は届かず、怒られたという感情だけ残ってしまいます。また、否定的な言葉ではなく、具体的にどういう行動を取ればいいのか代わりの行動を伝えています。合言葉を決めておくことも有効だと思います。例えば、いらんことをしたら、「家でやり(なさい)」と言う。いらんことを言ったら、「家で言い(なさい)」と言う。今やったことや言ったことは家から一歩出て学校ですべきことでないと認識させます。他にも、立たすことが有効な場合もあります。一度立たせて、なんで立たされたのか考えさせ、その意味がわかったら座らせます。子どもたちは良くないことをしたという意識がないことがあります。一度立たせることで、立たされた理由を自ら考えることができるので、これだけで収まることもよくあります。これのいいところは、叱るではなく、本人が理解して座ったら「よくできたね」とほめてあげることができることです。

絵本『ぼく、わたしのトリセツ』。子どもと教員の関係を「笑顔」に。

小田:先ほどは、松下先生自身の怒りのコントロールや、教員から児童へ「叱る」ということを教えていただきました。昨年、松下先生が書かれた『ぼく、わたしのトリセツ』を読ませていただきました。ここでは、子ども目線から、こういう風に叱ってほしい、寄り添ってほしい、という大人へのメッセージが詰まっているように思います。

作者の失敗経験(必要以上にネチネチ怒ってしまった、怒鳴ってしまった)を元に、「怒り」を「笑い」に変えるエピソードやアイデアが、子ども目線で描かれています。
怒ってばかりいた大人、怒られてばかりいた子ども、どちらも笑顔になる本です。
怒ってばかりいた相手を、可愛らしく思える本です。
学校現場だけでなく、保育や育児、人材育成に関わる方にも、是非、手にとっていただきたい絵本です。
紹介文より抜粋

小田:僕も早速に拝読し、実際にこういう子どもいるなと共感したり、思わず笑ってしまうところもありました。子どもたちの世界を言葉だけで表現するのではなく、「絵本」にされたことがとても印象に残りました。制作の背景を教えていただけますか。

松下先生:自分が今まで経験してきた子どもたちのトラブル対応を思い返したとき、やはりうまくいかなかったことの方が多かった一方で、うまくいったときのことを思い返すと、大体が子どもたちにとって楽しい対応をしたときだったんです。その楽しさを伝えるには絵がある絵本という形がいいのではと考え、まずは「絵本」というスタイルを選びました。
 絵本の中で紹介されている内容は今まで実際に起きたことを元に描かれているので、必ずしもすべての子どもにも通じるわけではありません。なのでタイトルも『ぼく、わたしのトリセツ』として、表紙に子どもたちが自分の名前を入れられるように( )を付けました。「こうしてくれたら僕は先生の言うことを聞くよ」と子どもたちが自分のトリセツを作って、それを笑顔で受け取れるような教員と子どもたちとの関係を築いてほしいなという思いを込めて作りました。

小田:松下先生は実際にこの本のように、自分のトリセツを子どもたちに作らせるような活動をされたとのこと。この本がきっかけとなって、教員と子どもたちの関係が少しでも豊かになったり、先生方にとっては生活指導上のヒントになったり、自らの対応を振り返るきっかけにもなったりしそうです。また学校に限らず子育てをされている保護者の方や、児童館や学童の先生、塾の先生といった広く子どもたちと関わる皆さんにもとっても価値のある本ではないかと感じました。

松下先生:この本を作成していた当時は「妖怪ウォッチ」、今では「呪術廻戦」というアニメが子どもたちの間で人気になっていますが、そうしたファンタジーの要素も含みながら、「子どもの世界」を大切に作っています。
 この本に登場するたくさんの子どもたちにそうしているように、高学年には恋心をくすぐってみたり、男の子には食欲をくすぐって対応したりすると、子どもたちのかわいい一面を引き出しながら、教員メッセージを子どもにも伝えられるように思います。

小田:少し、飛躍的な考え方かもしれませんが、この本を深く読み解くうえで、松下先生の学校現場でのご経験が豊かになればなるほど、子どもとの距離感が変化していったことも関係があるのかもしれないと思いました。

松下先生:確かに、経験を重ねれば重ねるほど、「自分ってどんどん冷たい人間になっていっているな」と思うことがあります。例えば、子どもがけがをしたときに、それが子ども自身に原因があるのか、それとも誰かにされたのかということが先に気になってしまうようになりました。

小田:現状把握から次の対応へ移行する「速やかな対処」が重要という発想ですね。そうした対応スキルがあがっていくことが教員の1つの成長の指標である一方で、子どもの心と申しますか、その時、その場にしかない子どもの気持ちに寄り添う力というものは、実は新採の先生方の方が豊かにお持ちでいらっしゃるかもしれませんね。

松下先生:本当にその通りです。新採の先生方の方が、子どもの心に寄り添った言葉がけをいざというときにできることが多いと思います。

小田:松下先生のそうした、「教員としての温かい気持ちを忘れたくない」という思いも詰まっているように感じたからこそ、僕はこの本にとても共感したこと、腑に落ちました。

全国の先生方へのメッセージ

小田:最後に、全国の先生方へ一言メッセージをお願いします。

松下先生:新型コロナウィルスの影響下で色々と大変な時だからこそ、また教育の形も色々と新しいものがどんどん入ってくるときだからこそ、自分がなんで教員になったのかということをよく思い起こします。私の場合は、休み時間に子どもたちと一緒に遊びたかったから先生になりました。実際に今日も忙しい一日でしたが、子どもたちと2回遊びました。
 大変な時だからこそ、全国の先生方にも、自分がなんで教員になったのかなということを思い出して、いま、目の前にいる子どもたちとその願いを達成してほしいと心から思います。

小田:松下先生、今日はありがとうございました。

話し手

松下隼司先生 … 大阪府の公立小学校教諭、生活指導主任。

聞き手

小田直弥 … POWER FOR TEACHERS編集長。東京学芸大こども未来研究所学術フェロー。国立大学法人弘前大学助教。

ライター

福島達朗 … NPO法人みんなのことば事務局長、部活動指導員(渋谷区, 吹奏楽)、フリーランスのステージマネージャー

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