愛知県の小学校にお勤めの安東先生へのインタビュー。GIGAをきっかけに、今までよりも協力し合える職員室作りへ。 「管理すること」から「信じること」へのマインドチェンジ。 保護者や地域とつながるためにも、対話を生み出す。
小田:今日は、愛知県の公立小学校にお勤めの安東哲也先生にお話しを伺ってまいります。
安東先生は、小学校でのお勤めの前にはエンジニアとしてのご経験がおありとのこと。まずは自己紹介をお願いします。
安東先生:いまは小学校で教員をしていますが、教員になる前は10年間、県内の某自動車メーカーにて、自動車の電子部品の設計開発をしていました。
教員になりたいと思ったきっかけは東日本大震災でした。もとは、幸せを感じる人が増えたり、誰かの幸せを感じる時間が少しでも長くなったりすることに貢献したいという想いをもってモノづくりをしていましたが、東日本大震災はこうしたモノづくりを通した貢献への限界を感じた出来事でもありました。
小田:教員と、企業人としての電子部品の設計開発業務を比べると、全く違う職を選ばれたようにも感じます。
安東先生:確かに、業務内容そのものは大きく変わったように思いますが、ただ僕の中ではあまり大きな変化はありませんでした。それは、業務内容というよりも、仕事を通して何を達成したいのかという「志」は、どちらの職も同じであるように思うからです。
小田:つまりはどちらの職も、誰かの幸せに貢献することに変わりはない、ということですね。
教員としてのお勤めを開始されたことで、企業と学校での働き方の感覚の違いもあったのではないでしょうか。
安東先生:それについては、たくさんの違いがあると思いますが、特に感じたのは、対子どもではなく、対教員の主体性の在り方です。企業人の方が主体性があるという短絡的な意味ではなく、教員は様々な制約の中で主体性を発揮しにくい環境があるのではないかと感じることがあります。子どもたちは、実は教員のそういったところも感じ取っているように思いますし、もしかするとそうした教員の主体性の在り方が、子どもたちの主体性にも影響しているような印象があります。
小田:エンジニアから教員になられて、改めて、教員という職をどのように捉えていらっしゃるのでしょうか。
安東先生:最高の仕事だと思います。それは第一に、自分自身が子どもの今と未来の幸せに直接関われていることが幸せだということです。加えて、公立学校の教員の仕事という視点で言うと、いい意味でお金の計算をしなくていいというところにも魅力があると思います。お金の計算というのは、利益や採算性を指します。つまりは、子どもの幸せのためであればなんでも全力で取り組んでいいということです。これはとても魅力的です。一方で、そのためか教員はバックキャスティング思考*で今取り組むべきことを考える文化があまりないようにも感じました。その点では自分のような経歴で教員になったということで見えてくることもありますし、やりがいを感じています。周囲からそのような期待をされた時にも喜びを感じます。
小田:さて、まもなく2020年度が終わりを迎えようとしています。「コロナで始まり、コロナで終わる」、まさにそんな1年だったように思います。安東先生はこの1年をどのように振り返られますか。
安東先生:おそらくコロナ以前に比べて、今の教育の在り方に問いを立てれた人の全国的な広がりが見られたのではないかと振り返っています。そしてこれは、とても希望であるように思います。
小田:安東先生はこれまでに、様々なツールをご活用の上、情報発信をされてきたように思いますが、そうした中で得られた全国の先生方とのつながりはとても貴重なものだったように拝察しています。
安東先生:僕はどちらかというと尖った人間だと思っているのに加えて、そうでありたいとも思っているのですが、情報発信を通して、そうした先生が全国にもたくさんいるということに気づくことができたのは本当に嬉しかったです。
少し視野を広げると、いま、「つなげる」「つながる」をキーワードに、GIGAスクールが始まろうとしていて、それは子どもと社会をつなげることや、子どもの学び方を新しくすることへの期待があるようにも思いますが、その他にも、先生たち同士がGIGAをきっかけにつながれる可能性があるのではないかと感じています。
小田:もう少し詳しく教えてください。
安東先生:職員室はとても閉じられた空間だと思っていて、隣の学校の職員室の中ともつながっていません。でも、タブレット端末とZoomがあれば、僕たちが主体的に先生たちとつながることができ、それぞれが関心をもっている研究テーマ等を共有することができます。まずは近い距離の先生とつながり、徐々に遠いところにいらっしゃる先生ともつながれるようになれば、職員室も変わってくるように思います。
小田:いま、GIGAスクールの方へ自然と話題がシフトしていきましたが、GIGAへの期待をお話しくださった一方で、課題についてはどのような認識をおもちなのでしょうか。
安東先生:すでに方々で言われているようにも思いますが、「教員のマインドセット」がいかに変わるか、ということが課題として挙げられると思います。これは、端末等のモノがいかにそろっていくか、という視点の先にあるマインドのことであって、以前どこかで伺ったことのある「モノはそろった、心はどうだ?」という言葉に凝縮されているようにも思います。
今回のような新しい動きを目前にしたとき、マインドが変わらないことよりも怖いと感じるのは、二極化です。
小田:確かに、二極の両端がどんどん遠くなっていってしまうと、さらに混乱が大きくなるようにも思います。
安東先生:一方で、こうしたGIGAの流れをチャンスと捉えることもできると直感しています。それは、ICT機器に積極的な先生と、自信がない先生とが手を取り合い、協力できるチャンスが生まれたという意味です。このチャンスを活かすことで、今までよりも協力し合える職員室作りができると良いなと感じています。
マインドセットを変えていくためのポイントは、「子どもたちを管理すること」から、「子どもたちを信じて任せる」という勇気を伴うものなのだと思います。
小田:管理は「監視」とも似ています。子どもたちの行動を大人側の都合で規制するルールづくりと、子どもたちを信じて共にルールを作っていくというマインドチェンジのようにも感じました。
安東先生:僕は元車屋さんなので車に例えていうと、本当は前へ進まなければいけないとき、つまりはアクセルを踏まなければいけないときに、一般的に先生方はリスクマネージメントの視点が先にきやすいのでブレーキを踏もうとします。いま、全国的にアクセルを踏もうという雰囲気が醸成されつつある中で、それでも現場ではブレーキを踏みたがり、結果的にアクセルとブレーキを両方踏もうとしているようにも思います。アクセルとブレーキを同時に踏むと車は壊れます。学校も、アクセルとブレーキを両方踏んでしまうと、壊れてしまうのではないかと感じています。そしてそれは子どもたちに良い影響でないことは明らかです。そうならないためには、ブレーキを離す勇気が必要なのだと思います。
小田:今回のGIGAは「勇気」がキーワードとも言えるのかもしれません。
安東先生:とはいえ、いま、ICTの活用にすぐには前向きになれない先生のためにお伝えしたい私の考えとして、今回のGIGAスクールについて「多様な子供たちを誰一人取り残すことなく、子供たち一人一人に公正に個別最適化され、資質・能力を一層確実に育成できる教育ICT環境の実現」と謳われているのを見ると、「誰一人取り残さない」、「公正に個別最適化」、「資質・能力を一層確実に育成できる」ための教育ICT環境の実現であって、ICT環境の整備は手段であり、目的ではありません。
小田:2019年12月19日付の文部科学大臣によるメッセージでも、「忘れてはならないことは、ICT 環境の整備は手段であり目的ではないということ」とあります。
安東先生:加えて、ICTを使える先生が、ICTに前向きになれない先生がいることを分かったうえで、偉ぶらずに優しい言葉をかけられるかどうかということも大切になってくるように思います。そうでなければ、使える先生が偉いという構図が職員室の中に生まれてしまいます。
小田:そうはいっても、すぐに使えるようにならなきゃだめだと思ってしまう真面目な先生はたくさんいらっしゃるんだろうなと思います。
安東先生:それはそうだと思います。そういった先生にとっては、自分が使えるようにならなければいけないことへの焦りもあるのに加えて、もしかすると保護者や地域を恐れていることもあるかもしれないと感じています。「あそこの先生は使えているのに、うちの先生は使えていない」という風に思われているだろうと考えることが怖いという…。
小田:それは確かに怖いかもしれません。
安東先生:GIGAがまずは職員室の中での対話が生まれるきっかけにつながり、加えて、これを機に家庭や地域、社会と学校がつながり、本当の意味での開かれた学校になってくれると良いなと考えています。その意味では、今年の春の学校説明会が最も重要なポイントになりますね。
小田:今のお話は、まさに新学習指導要領とも関連が深いことのように思いますし、社会と共に課題を共有していくことの重要性を感じています。
安東先生は、教員になる前は企業人としてのご経験があることから、学校外の立場から学校を見ることができると思います。これから先、社会とより良い連携をしていくために、学校に、いまできることは何があるのでしょうか。
安東先生:学校はもっと情報発信をすべきだと思います。学校通信や学級通信の公開のみでは、開かれた学校とは言えないと感じています。いまはYouTube等で簡単に情報発信が可能な時代です。もちろん写真も含め、個人情報の取扱いには十分な注意が必要ですが、もっと発信をすることで、保護者の方や地域の方とのつながりは自然に生まれてくるように思います。
小田:保守的なアイデアが僕の頭には浮かんできてしまうのですが、情報発信をすることでつながり始めた結果、多くの意見が集まった場合、集まってしまった意見については対応しなければいけないようにも思います。これは、学校が社会に開かれることを推進したい気持ちと、そうした場合の対応の複雑さという矛盾のあるアイデアで恐縮なのですが…。
安東先生:確かに、これまでは少数派の大きな声(クレーム)におびえることはあったと思いますし、寄せられる声が多くなればなるほど対応の煩雑化も予想されます。ただ、今はオンラインを使えば保護者の方にも簡単にアンケートの回答依頼をすることが可能です。少数派の声を拾っていくだけのこれまでの方法では学校と保護者、地域はつながれないように思います。オンラインを活用しながら、例えばイベントごとにアンケートを実施するなどして、さらにそのアンケートに校長先生等からのメッセージをほんの少しでも添えてもらえれば、アンケートが充実した対話の場になりうるようにも思います。
大切なのは、対応をしていくブレーキの視点ではなく、対話を生み出すというアクセルの視点なのかもしれません。
小田:最後に、全国の先生方へ一言メッセージをお願いします。
安東先生:一緒に子どもたちとGIGAを楽しみましょう!
小田:安東先生、今日はありがとうございました。
安東哲也先生…愛知県の小学校教諭。
Facebook:https://www.facebook.com/tetsuya.ando.165
小田直弥 … NPO法人東京学芸大こども未来研究所専門研究員。
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