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2021.05.28 Fri

学校の役割を見つめ直す。地域の課題を受け止め、生徒が創る学校へ。

広島県立加計高等学校(広島)にお勤めの片岡巧先生へのインタビュー。

地域の未来を創る、学校の役割。

小田:5月も末となり、運動会を終えた学校も多いのではないでしょうか。今日は、片岡巧先生にお話を伺ってまいります。
 はじめに、自己紹介をお願いします。

片岡先生:私は現在、広島県北西部の安芸太田町にある広島県立加計高等学校に勤めています。勤続7年目で、担当教科は地歴・公民科、進路指導主事も務めています。
 安芸太田町は人口6,000人弱の小さな町で、広島県の中で最も少子高齢化が進んでいます。そのため本校は1学年1クラスで、何年も前から統廃合の検討対象になりかねない状況が続いています。

小田:広島県の基準では、全校生徒数が80名を下回ると統廃合の検討開始、2年連続下回ると統廃合の対象となるとのこと。

片岡先生:そうした危機的な状況の中でも、この地域に学校を残したいと願う地域の方々から、本当にたくさんの支援をいただきながら運営をしている状況です。
 そこで、まずは地元の子どもたちに入ってもらえる学校になるべく、連携型中高一貫校というシステムを進め、地域の中学校との連携を開始しました。加えて、そもそも地元の子どもたちの人口減もあったことから、全国からの生徒募集も行い、現在では全校生徒の約2割が県外生となっています。

小田:地域の方々の思いも背負い、生き残り戦略が花開いているように思います。
 現在では、全校生徒の約2割が県外生とのこと。御校への入学動機は何があるのでしょうか。

片岡先生:本校の特色の1つとしている射撃部の存在が大きいです。指導に当たる顧問の先生ご自身も現役国体選手であり、とてもハイレベルな指導を受けることができます。毎年全国大会にも出場し、実績を残しています。
 もう1つは、国際交流です。広島県は歴史的に多くの海外移住者を輩出した全国第1位の移民県であり、また生徒たちにも外の世界に目を向けてもらいたいと思いもあり、本校では多くの国際交流の機会を設けています。例年、概ね年間100名程度、国籍も20か国以上の外国人の方々(主にJICA研修生や南米日系人高校生など)が来校して交流を行い、ハワイの姉妹校への短期留学を支援する他、外国籍の生徒の受け入れも積極的に行っています。

小田:御校の学校要覧(令和2年度)を拝見し、ミッションの2つ目に「起業しようとする精神を醸成し…」という、「起業しようとする精神」に言及されている点が、とても魅力的に思いました。

片岡先生:少子高齢化の進んでいる地域では、やはり雇用創出が重大な課題となっています。しかし、ただ単純に会社を興すことだけを指して起業家精神に言及をしているわけではありません。地域の課題を課題として捉え、解決に向けて行動する時のマインドこそ起業家精神と関係の深いものであると考えています。そうしたものがこれから先、この地域での生きる力になっていくと信じて、全校生徒に取り組ませています。具体的には一昨年度から「総合的な探究の時間」の改革に着手し、昨年度は「『起業家精神をもって地域社会を支え、新しい時代を生き抜く人材』の育成」を目標に進めてきました。

小田:学校の役割として、地域の未来を創る方向へしっかりと向いていることを感じます。地域の今の課題と、これから起こり得るであろう課題を見据えたうえで、いま生徒たちに何を提供し、何ができるようになるべきか、とても大切な発想です。

「信頼」と「知恵」で最新の課題を乗り越えていく。

小田:加計高等学校での様々な取り組みを拝見すると、「多様性」がキーワードになっているように感じています。御校での「多様性」の育み方について伺えますでしょうか。

片岡先生:先ほども申し上げた通り、元々本校は町外からも生徒を受け入れないといけないというベースとなる課題がありました。その上で、前校長が掲げていたのが「過去は問わない」という姿勢です。たとえ小中学校時代にどんなことがあったとしても、本校で自分自身を変えたいという思いがあるのならば、どんな子どもでも、間口を広くして受け入れるという前校長の強い思いがありました。町外から来る生徒には過去に不登校の経験がある子も少なくありません。本校ではそのような生徒も受け入れるという前提で体制を整えています。
 加えて、常日頃から生徒たちには「ダイバーシティ」、「多様性」について話をしています。学校は、ともすると1つの型にはめ込んでしまうところもあります。しかし、学校は背景の異なる生徒たちが集まる場でもあるので、そもそも1つの枠にはめることは難しいところがあります。それを受け入れることで、将来生徒たちが社会に出た時により人生を豊かにする力を育めるのではないかと感じています。このことも前校長がずっと言い続けてきたことであり、また教職員の間でも共通認識をもてていることでもあります。「みんな違うんだ」という意識が前提ですので、違いを受け入れる空気というのは学校としてもすでに自然な雰囲気になっています。

小田:御校には外国にルーツのある生徒も在籍しているとのこと。そういった多国籍という意味での多様性もありますが、そもそも生徒一人一人が異なる背景をもつという、「みんな違う」という意味での多様性は、今日的に重要な考え方と思います。
 御校では制服にも特徴がおありとのこと。

片岡先生:3年前に制服を変更したのですが、そのときに制服を「選択制」に切り替えました。というのも、この辺りは寒い地域なので女子生徒からもスカートが寒いという声があったこと、また世の中の流れも変わってきているので、制服の切り替えと同時に、学校としてもLGBTQ+の発想を取り入れようとしたことが理由です。
 実際に男子生徒でスカートを履いている子もいます。この生徒については個人的な興味が着用のきっかけのようですが、身につけていくなかで周囲から奇異の目で見られたりするなどの様々な経験を通して、LGBTQ+の人たちが選びたくても選べない見えない社会課題があることに気づいていったようです。

小田:地域の人たちは、御校の多様性に係る取り組みについて受け入れてくださっている印象でしょうか。

片岡先生:誰もがすべて受け入れてくれているわけではないと思います。ただ加計高校は社会人として必要な多様性を育てているんだということを、地域の方々にも常々発信してきました。そうして長年かけて築いてきた学校に対する信頼感が地域との教育協働の鍵になると感じています。

小田:ここで、地域との具体的な連携事例について、教えていただけますか。

片岡先生:たくさんありますが、わかりやすいところでお話すると、年間30回程度、地域の様々なイベントや伝統行事に生徒たちをボランティアとして積極的に参加させています。日ごろから地域のために加計高校の生徒が活動していることから、地域の方からも頼りにしていただいています。
 他にも毎年4月には「花いっぱい運動」として地域に花を配る活動、「総合的な探究の時間」では、授業の一環として地域課題に取り組む活動を展開しています。例えば、役場の方に講師をお願いしたり、地域商社から地域の課題を共有いただいたり、あるいは業者の方や専門家の方をつないでいただいて商品開発を進めたりしています。こういった取り組みが総合的に地域との信頼構築に寄与しているのではないかと思います。
 また公営塾との連携も進んでいます。公営塾は、町内の公共施設を利用し、講師費も自治体負担で運営されています。生徒は、平日は学校で補習や自習室の活用、土日は町の公営塾を利用するといった連携です。

小田:地元との連携の他にも、熊本県天草市への生徒派遣、ハワイにある姉妹校への生徒派遣などにも取り組まれているとのこと、在学中の生徒たちの関係人口の広がりはとても大きなものがあると思います。
 素朴な質問なのですが、それほどまでに各所との連携をされているとなると、今回の新型コロナウィルスの影響は大きかったのではないのでしょうか。

片岡先生:地域イベントなどはイベント自体の開催がなくなってしまったのですが、地域の清掃など、可能な範囲を常に見極めながら活動は継続しました。
 特に去年は医療従事者への感謝のメッセージを出したいということから、ブルーライトアップを大規模に行いました。計3回で、1回目は校舎を、2回目は町内にある温井ダムを、3回目は町内の温浴施設をライトアップしました。ただお客様を呼ぶことはできなかったため、YouTubeを使ってすべてオンラインで配信を行い、Facebookでも広報活動をしたところ、リーチが2万件にまでなりました。そのような形で外とのつながりを保つ努力を続けてきました。

2020年8月16日に行われた医療従事者への感謝のメッセージを込めたブルーライトアップ

 国際交流もなかなかできない状況でしたが、県の国際課と連携しながら、海外からではなく、県内の大学に通う留学生の方たちに学校まで来てもらい交流を行ったり、広島大学の外国籍の先生に授業をしていただいたり、またJICAの研修生の方たちとはオンラインでの交流会も実施しました。他にも色々行っていますが、なんとかこのコロナ禍を乗り越えていこうとみんなで知恵を出しあって取り組んでいるところです。

生徒主体で創る学校

小田:御校の取り組みについて、多くをネット上で拝見することができます。情報公開の体制についても教えていただけますか。

片岡先生:メディア露出については、何か新しい取り組みをするときには管理職からテレビ局や地元新聞社にプレスリリースを出しています。SNSについては、昨年からFacebook、Twitter、Instagram、LINE公式アカウント、YouTubeの5つについて、学校の公式アカウントを一気に開設しました。開設時は教員が更新していたのですが、昨年の6月からは生徒に更新を担当してもらっています。個人のアカウントではなく、学校のアカウントを使って発信しますので、そのような視点に立って記事を書いたり写真を撮ったりと、責任感をもって発信してくれていて、メディアリテラシーの勉強にもなっています。

小田:もう1つ気になったのは「社会へのかけはし」という授業ですが、これはどのような内容の授業になるのでしょうか。

片岡先生:「社会へのかけはし」は本校の独自科目です。本校では、生徒たち自身が進路に向けて考えたり、活動したりする時間が不足しているという課題がありましたので、それならば「進路」をテーマとした授業を設けようと4年前に作った科目です。
 特に大事にしていることは、生徒たちが社会人になったときに大切になるマインドやスキル、マナー等も学ばせるという点です。10月頃までは進路選択や志望校について調べたり、面接練習したりと、いわゆる一般的な進路指導を行いますが、11月以降は社会に出た時に必要になることを中心に教えています。具体的にはストレスマネジメントやアンガーマネジメント、「報・連・相」の仕方や社会人の身だしなみ、OODAループやPDCAサイクルについても教えています。先ほどの「起業家精神」にも通じるところですが、目の前にある課題を見取ってどのように判断しアプローチしていくのか。実際のモデルケースを用いて生徒たちに考える機会を与えています。

小田:ここまで、御校の取り組みについて伺っていると、計画があまりに緻密で、実際の活動が教員主体なのか、子ども主体なのかが気になりました。

片岡先生:確かに教員側がプログラムをしっかり組んで実施していることは確かですが、実際は生徒の主体性を重視して進めています。例えば、学校行事もボランティア活動も、生徒会や生徒が主体となって中身を作って動かしています。あらゆる活動の中に生徒の主体性を引き出す仕掛けを準備するように意識しています。生徒を信じて任せてみる。失敗したらなぜ失敗したのかを考えさせ、改善方法を考えさせる。そして再びチャレンジさせる。自分たちで創っていくんだという意識を育てることが大切だと考えています。

小田:「生徒主体で創る学校」が、まさにポイントなのだと拝察しました。
 生徒たちは先生方がご準備されたたくさんの機会の中で、多様な体験をし、感じ、学び、自然に育っていける環境に身を置いていることと思います。羨ましい限りです。

全国の先生方へのメッセージ

小田:最後に、全国の先生方へ一言メッセージをお願いします。

片岡先生:実は私が本校に赴任してきた当時は、生徒を信じられない学校でした。地域の施設を汚したり、壊したりするなど問題行動もあり、地域からなくなればよい学校とまで言われていました。なので、当時は生徒に任せることができず、教員が作ったものをやらせればよい、教員の枠にはめればよいという風潮が色濃い学校でした。そこからこの数年かけて、「生徒の可能性を信じる」、「生徒の力を信じる」ということを大切に、本校の先生方と議論しながら様々な改革を進めてきました。
 全国の学校が、それぞれにいろいろな課題を抱えて、苦心して取り組まれていると思います。ただ、最後はやはり生徒を信じることが大切なのではないかと考えています。生徒の可能性や力を伸ばそう、引き出そうという思いをもって取り組んでいくことこそが、私たち教員に求められていることではないかと思います。
 本当に様々なご苦労があると思いますが、生徒たちを信じて伸ばしてあげられるような教員や学校のネットワークを作れると良いと思っておりますし、本校も私自身もその一端を担えるようにこれからも尽力したいと思っています。

小田:片岡先生、今日はありがとうございました。

話し手

片岡巧先生 … 広島県立加計高等学校の地歴・公民科教諭、進路指導主事。

聞き手

小田直弥 … NPO法人東京学芸大こども未来研究所専門研究員。

ライター

福島達朗 … NPO法人みんなのことば事務局長、部活動指導員(渋谷区, 吹奏楽)、フリーランスのステージマネージャー

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