2020年コロナウィルスの感染拡大に伴い、全国の先生を応援するために始まった「POWER FOR TEACHERS」ですが、2022年3月を持ちまして、クローズさせていただきました。これまで以上に先生方を応援するために「先生応援サイト−Suporting Teachers-」が始まりました。ぜひそちら(日教弘クラブオフ・会員制)をご覧ください。またお会いしましょう!! 

2021.01.22 Fri

押さえておきたい著作権のことと、指導や生活に役立つ情報プラットフォーム。

「原口直の一歩先ゆく音楽教育」を運営されている原口先生へのインタビュー。
  • 音楽に関する著作権について知りたいときは「JASRAC PARK」がオススメ。
  • 原口直の一歩先ゆく音楽教育」では先生の指導や生活に役立つ情報を発信。
  • 悩んでいるということを発信するだけでも、つながりはじめるかもしれません。
  • これからに備えて確認しておきたい著作権のこと。

    小田:今日は、密かに私が憧れている先生でもある原口直先生にインタビューをさせていただけることとなり、とても嬉しく思っております。原口先生は少し特徴的な経歴をおもちでいらっしゃいます。まずは自己紹介をお願いできますでしょうか。

    原口先生:私の出身大学は小田さんと同じ東京学芸大学ですが、その中でも、G類というゼロ免課程で声楽を専攻しました。卒業後は、1年間、小学校での非常勤講師を勤めたのちにワタナベエンターテインメント(以下、「ワタナベプロ」)という大手芸能プロダクションの養成所スタッフとして4年間働きました。
     次に東京都の採用試験を経て、足立区の中学校で4年半勤務することとなりました。ここでは、生活指導と音楽の授業の割合が9:1と言っても良いほど、生活指導をしっかりと勉強させていただく機会となりました。
     その後、縁あって東京学芸大学附属世田谷中学校で6年間の勤務をすることとなりました。ここでは、先ほどの学校とは違って、教科教育に没頭することとなったのに加えて、研究や教育実習生の指導も担当するなど、他では得られない貴重な経験を数多くさせていただきました。
     今は拠点を北海道へ移し、「原口直の一歩先ゆく音楽教育」を立ち上げました。

    小田:原口先生のご経歴の内、特徴的なのはワタナベプロでのご経験かと思いますが、そのご経験が授業づくりへ活かされることもあったのでしょうか。

    原口先生:ワタナベプロでは、著作権や肖像権など、タレントがもつ権利を深く知ったり、学ぶ機会となりました。特に、ワタナベプロは著作権の中の原盤権といった音楽ビジネスの礎を日本で初めてつくった団体でもあるため、音楽でお金をいただくとはどういうことか、音楽をたくさんの人に聴いてもらうこと、いっぱい買ってもらうことなどのビジネス的な視点について勉強できました。この経験は知的財産権教育の授業づくりへとつながっていきました。

    小田:著作権は、特に今年度、授業のリモート化(配信)が言われるようになったことで注目を集めることとなりましたが、私自身、学生と資料や音楽を共有したいと思った時、共有しても良い場面と、その方法については整理に時間がかかった記憶があります。忙しい中でも気軽に読めるオススメの資料はあったりするのでしょうか…。

    原口先生:音楽の著作権に関して知りたいときは、JASRAC(一般社団法人日本音楽著作権協会)の子ども用のページ「JASRAC PARK」がおすすめです。このサイトの中に「学校で音楽を使うときには」というページがあるのですが、ここに書かれてあることについては、本当に全員の先生に知ってほしいことばかりで、とても勉強になります。
     この他にも、著作権について知ることのできるページはあるのですが、漢字や法律の専門用語が多い印象で、難しく、他のサイトでも子ども向けにつくられたサイトの方が平易で、要点もまとまっていて見やすいです。

    小田:緊急事態宣言下、授業をオンラインで配信している学校も一定数はあるかと思いますが、その場合もやはりこうした著作権は気になるところです。

    原口先生:ある地域の例ですが、とある教材を授業として配信することは著作権としてはOKなのですが、それを教育委員会としてアップしたことについては授業目的での配信ではないという理由でNGになったと聞きました。こうした配信の難しさを感じさせられます。

    「一歩先ゆく音楽教育」は、指導や生活に役立つ情報プラットフォーム。

    小田:今年度からスタートされた「原口直の一歩先ゆく音楽教育」について、私はYouTubeで主に拝見していたのですが、とにかく、その豊富な動画の数に圧倒されています。つまりはそれだけの動画を作成できる原口先生の視野の広さに圧倒されています…。和太鼓での授業実践や合唱指導のコツといった教科固有の視点の他、オンライン授業の作り方、生徒への怒り方といったどの先生にもご参考いただけるもの、さらには最近では緊急事態宣言前の文科大臣の会見を3分でまとめた動画までもが公開されています。

    原口先生:「一歩先ゆく音楽教育」は、「学び続けたい」と思う現職の先生方や、教員を目指して学びを深め、広げている教育実習生や学生等に向けて有益な情報をお届けすることを目的に開始しました。発信方法はご紹介頂いたYouTubeの他、SNSや講演、出版等様々です。

    小田:この記事をご覧くださっている先生におかれましては、様々な発信方法のうち、最もご都合の良いものをお選びいただき、継続的に情報を取得いただけると良いと思うのですが、ここでは特にYouTubeでの内容について教えていただけると嬉しいです。

    原口先生:YouTubeにアップしている動画は、2020年4月1日を皮切りに、現在、約150本になりますが、これらは私が教員をしていた時、「こういうときにはこういう情報があったらな~」と思っていたことの積み重ねをきっかけとして作ったものです。今では、教育実習を受ける学生が、大学の授業の中で閲覧してくれていることも聞いています。
     4月、8月、冬休みは毎日動画をアップロードし、その他は週に1~2回の頻度で動画をアップロードしています。

    小田:4月は入学式の準備やスケジュール管理、5月は板書やワークシートの作り方など、年間計画のもとで動画がアップロードされているという工夫もあるように思います。

    原口先生:ご指摘いただいた時期に合わせた動画のアップに加えて、なるべく一時的な情報になることなく、長くご覧いただけるような内容を心掛けて作成しているということも工夫している点です。
     例えば、オンライン授業の作り方については今でこそ話題性をもって取り上げられるようになりましたが、もともとそうした授業方法について私が関心をもっていたということもあり、コロナとは異なる文脈で動画の作成を行ったという経緯があります。

    小田:ものすごく横道にそれてしまうかもしれないのですが、原口先生の動画の中では、場面の切り替えの意も込めて、羊の画像が登場すると思います。これには何か意味があるのでしょうか?

    原口先生:(笑)これは、私が単純に羊が好きということもあるのですが、HPのURLにも「makiba(牧場)」を含めており、たくさんの人が集まったり、様々なことをしているという意味を込めて羊の画像を使っています。

    小田:YouTubeについては最後に1点、ぜひお伺いしたいことがあります。翌4月には、新しく学校に着任される先生もいらしたり、気持ちを新たに、新年度を迎えられる多くの先生方がいらっしゃることと思います。そうした先生方に、オススメ動画を2点、ご紹介頂けないでしょうか。

    原口先生:新年度を意識するということであれば、「学校における著作権入門(教員のためのシーン別著作権)」と「他人に自分を強く印象付けるためのノウハウを公開ー音楽教員のためのキャラづくりー」の動画をオススメさせてください。
     今後とも、「一歩先ゆく音楽教育」のYouTubeでは、先生方の指導や生活に役立つ情報を発信していきますため、必要な時にご覧いただければと思います。

    オンラインを活用した情報発信の心。

    小田:原口先生は2020年の3月末で教員を退職され、現在の活動を新たに開始されたことと思いますが、そのタイミングは、コロナの影響をうけて学校が新たな変化をしなければいけない変わり目でもあったと思います。まだ教員としての肌感覚が身体に染みついている原口先生から見て、コロナと学校の関係を、どのようにご覧になられていますか。

    原口先生:GIGAスクール構想はかねてより言われていましたが、(良くない要因であることはもちろんだとしても)コロナの影響を受けてオンライン授業の検討が一気に加速したように見ています。私は、この3月、一切後悔なく退職をしたつもりだったのですが、「一人一台タブレットがあるならば私はこういうことをしたかった」という思いが、強く残ることとなりました。一人一台タブレットがあれば何ができるのか、きっと面白いことがたくさんできるだろうと感じています。

    小田:一方で以前、とある先生から、ふと目にしたテレビ番組で「僕たち子どもも頑張ってるから先生も頑張って!」というメッセージを見て、その言葉を前向きに捉えられなかったというお声も聞きました。これについては、僕のような学校外の人間が安易に共感してはいけないと思うような勝手な壁も私の中にはあり、それほどまでに授業や学校を維持することが大変な現状があることを感じました。
     このPOWER FOR TEACHERSを立ち上げてから半年強、全国の先生方のお役に立てる情報をお届けしたいとこつこつと運営を続けてきましたが、「今、本当に全国の先生方のお役に立つためには何をすべきなのか」という自問自答はとても頻度高く私の中で繰り返されていて、いつでも悩んでいます。原口先生も、学校外からのお立場として2020年度はお取組みをされていますが、この点、いかがお考えでしょうか。

    原口先生:全国の先生方は置かれている状況がそれぞれ違います。社会の流れも流動的です。そうした場合には、例えば、じゃがいも畑の中にたたずむ小学校と、都会にある附属世田谷小学校ではおそらく同じルールでは上手くいかない気がするように、なにか全国共通の1つのルールを確立することがそれぞれの地域で活躍する先生や学校の答えではないと感じています。
     そう思うと、私は「困ったときや勉強したいときに、欲しい情報が、いつでもアクセスできるという環境をオンライン上に整えておくこと」が最も重要なのではないかと考えています。私の「一歩先ゆく音楽教育」であったり、このPOWER FOR TEACHERSがそうした存在としてお役に立てたら嬉しいことなのだと思います。

    小田:本当であれば、勇気を出してご連絡くださった方には、直接お会いしたり、ご連絡を取らせていただきながら、寄り添った対応ができれば最も良いのですが、いつもそれができるとは限らないと思うと、オンラインプラットフォームを常に開いておくことの重要性を強く感じます。

    原口先生:まずはあらゆるニーズに対応できるように可能な限り情報の数と幅をそろえたオンラインプラットフォームを整備し、オープンにしておくことが重要であり、それに対して本当に情報が欲しい人がアクセスくださるのを待つことが大切なのだと思います。

    小田:全国各地、様々な状況の中で教育活動や学校運営をなされている先生方に対し、どうすればオンラインを通してお役に立てるのか、考えを深めるヒントとなりました。私たちはオンラインプラットフォームを整備し、全国の先生方はそれを時に実務に活かし、心の栄養とするなどして少しでも役立てたならば、そうした次世代型の「協働」を目指すこともアリですよね。

    全国の先生方へのメッセージ

    小田:最後に、全国の先生方へ一言メッセージをお願いします。

    原口先生:まず、「このサイトをご覧になってる時点であなたは素晴らしい!」と本当に思います。このサイトをご覧いただく背景には、何か情報を得たいという思いの他、誰かに勧められて見たなどあるかと思いますが、ただ誰かに勧められたのだとしても、このサイトを探して、開いて、読んだということはものすごい行動力とも言えます。そのため、本当に見てくださっているみなさんに感謝の思いがあります。
     そういった方が一人でも増えるように、「役に立ったな」とか「これは良かったな」ということがあれば、ぜひご自身でも「発信者」になってほしいと思います。教員の発信力や他の人を巻き込む力、説得力といった力は、とても大きいと思います。普段はそれを子どもに対して発揮することが多いと思いますが、ぜひ大人に対してもそうした力を活用いただきたいと思います。
     もう1点、全国各地には、温かい目で教員や学校のことを考えたり、思ったりしている人がたくさんいるということ、そしてきっと近くにもいるということを知ってもらいたいなと思います。私も一人教科だったので、困った時に誰かに聞くということをあまりしてきませんでした。むしろ、そうした選択肢が無くて諦めていたというのが正直なところかもしれません。今は、インターネットを通じて、同じように困っている人、それをすでに解決したことがある人、解決のために手を貸してくれる人がたくさんいると思うので、ぜひ一人で悩まないで、悩んでいるということでも良いので発信してほしいと思います。

    小田:原口先生、今日はありがとうございました。

    話し手

    原口直先生 … 「原口直の一歩先ゆく音楽教育」を運営。足立区公立中学校、東京学芸大学附属世田谷中学校元音楽科教諭。
    ブログ:https://makiba.work/
    YouTube:https://www.youtube.com/channel/UCGfW2ZFmtDtnotodeUAApNA
    書籍:『YouTubeで授業/学級経営やってみた!』

    聞き手/ライター

    小田直弥 … NPO法人東京学芸大こども未来研究所専門研究員。

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