2020年コロナウィルスの感染拡大に伴い、全国の先生を応援するために始まった「POWER FOR TEACHERS」ですが、2022年3月を持ちまして、クローズさせていただきました。これまで以上に先生方を応援するために「先生応援サイト−Suporting Teachers-」が始まりました。ぜひそちら(日教弘クラブオフ・会員制)をご覧ください。またお会いしましょう!! 

2020.09.11 Fri

遊び、輝く子どもたち。

埼玉県坂戸市にて、学童保育とコミュニティ・スペースを兼務されている平山雄大先生へのインタビュー。

教員から学童の先生へ。

小田:今日は埼玉県にて学童保育ならびにコミュニティ・スペースでお勤めの平山雄大先生にお話しを伺ってまいります。先生は公立小学校でのご勤務経験もおありとのこと。まずは現職に至るまでの経緯をお聞かせいただけるでしょうか。

平山先生:大学生の頃に、学校ではない場(サードプレイス)での「遊び」を通してみられる子どもの姿や、学校教員ではない自分自身の在り方について考える機会があり、大学院を修了した後、まずは教員採用試験を受け、神奈川県の公立小学校で2年間勤めることにしました。その後は、ご縁があったNPO法人の運営する学童に勤めを移し、さらに、その在職期間中に声をかけてもらったことから現職に至りました。

小田:学校でのお勤めの経験が、その後の転職のご判断に影響をもたらしたと感じているのですが、きっかけになるようなエピソードがあれば教えてください。

平山先生:小学校での初任のときは2年生の担任をしていたのですが、夏休みの宿題で登山鉄道のジオラマを作ってきた子がいたんです。その高いクオリティのジオラマに象徴されるような感性の豊かさや視点の深さを感じた一方で、国語や算数などの教科の枠組みや評価項目の観点ではその子の良さを十分に捉えることができず、悔しい思いをしました。2年目は特別支援学級の担任をさせていただく中で子どもたちとの関わりの中で教材や授業をつくる楽しさを感じつつ、学生時代の原体験であるサードプレイス的な場での実践や学校の枠を取っ払った先にあるダイナミックな教育活動に携わりたいという思いが一層強まり、学校現場からの転職を決意しました。

小田:子どもとの関わりの場が小学校から学童保育に移り、どのような実感をお持ちでしょうか。

平山先生:時間割などの制約が少ない分、遊びを通して子どもたちとのびのび過ごすことができていると感じています。一方で、これまでいくつか放課後等の現場を経験してきた中で、個々の職員間で異なる子ども観・人間観・教育観・発達観などをどのようにすり合わせていくかというところに難しさや課題を感じてきました。枠組みや指標が緩やかな現場だからこそ、それぞれの価値観の違いを生かし合いながらより良い実践を生み出していくような対話的・協働的な雰囲気が求められるように思っています。

小田:コロナの影響についても教えてください。

平山先生:学校が休校であった3か月間は、朝から晩まで子どもの受け入れが続きました。その他は、例年実施している関連の放課後等デイサービスとの合同運動会が中止になるなど、密が予測されるイベントは取りやめになりました。今後についても、社会情勢を見ながらになるため、未定なところが多いのが正直なところです。

ゾンビ鬼

小田:今、全国の学校現場では、業務の多忙化を極め、子どもたちと一緒に遊ぶ時間が少なくなっている先生もいると伺っています。他方、子どもたちとの遊びのレパートリーを探していらっしゃる先生も中にはいらっしゃるかもしれません。そこで、もしよろしければ今日は、コロナ禍で生まれた平山先生と子どもたちとの遊びの事例を教えていただく、というのはいかがでしょうか。コロナ禍においても子どもたちの生き生きとした姿がお届けできることで、全国の先生方の癒しや力になるかもしれません。

平山先生:分かりました。それでは、遊びの生まれた背景や遊び方の紹介の連続になると思いますが、早速、「ゾンビ鬼」からご紹介します(笑)

小田:早速、奇抜なタイトルですね。

平山先生:私の勤める学童保育では19時まで預かりをしています。私は現在の職場に移って3年目になりますが、毎年夏の時期、陽が落ちてくる18時30分ごろになると、自然発生的に「お化け屋敷ごっこ」(部屋を暗くして、お化けに扮した子どもたちがお客さん役の職員を驚かせる、あるいはその逆)が始まるのが恒例となっています。今年も「お化け屋敷ごっこ」が始まるのかと思えば、「”ゾンビ鬼”やろう!」という新たな遊びを提案した子どもたち。こうして、増やし鬼と同じ要領で、タッチされたらゾンビになっていく遊びが生まれました。

小田:写真を拝見すると、左の人は手も若干垂れ下がり、猫背のようにも見えます。左側がゾンビになった鬼、右側が逃げている人ということでしょうか。

平山先生:そうです、そうです。真っ暗の中でも少しずつ視界が慣れていき、ゾンビの姿をした人から逃げていく、という遊びです。時間内に逃げ切れたら勝ち、というものです。この遊びの翌日は、普段は私と距離をとっていた子との距離が少し縮まったような場面もあり、僅かながらではあるけれど関係性が変わったことを感じました。

小田:平山先生のブログのうち、「夏休みの面白エピソード、子どもたちが生み出した遊びのまとめ」(8月22日)を拝見すると、ゾンビ鬼を楽しんだ5年生の女の子がまた新しい遊びを始めたとか…。

平山先生:コロナの関係もあり、登所の際には体温や健康状態を記録した健康観察カードの提出を各家庭にお願いしていました。ある日、健康観察カードを忘れてしまったその女の子が非接触型の体温計で体温を測っていたのですが、突如「私は絶対37度ある!」と言い始めたんです。その子と仲が良い6年生の女の子も加わり、なぜか生まれた「変顔をして、前髪をフッとあげると37度出るんだ!」という謎の説を立証すべく、前髪をかき上げながら変顔をして37℃が出るかを繰り返し行うという「温度計、37℃出るまで帰れまテン…?」という遊びが生まれました。

小田:なんだかほのぼのとしていて、良いですね。体温計で遊ぶことの是非や、37℃を目指すということへの不謹慎さも感じますが、その女の子は結局…

平山先生:もちろん、熱はありませんでした。その遊びも、お迎えが来て自然消滅しました(笑)。

進化回り将棋 きんにくまっちょさん

平山先生:回り将棋が流行っていた時期があったのですが、いつもと同じ回り将棋ではない、アレンジしたものを作ってみよう!ということで、「進化回り将棋」なるものが生まれました。

小田:回り将棋は、金将4つをサイコロのようにして、参加者の人数分、将棋盤のもっとも外側の角に歩兵を置き、一周したら香車、桂馬…という風に駒を変えていき、最後王将で一周出来たら上がり、という遊びですね。

平山先生:通常の駒を使うと、小学生低学年の子にとっては、漢字が難しかったり、駒の順番が難しかったりという難点があったため、「それならばダンボールを使って自分たちで駒を作ってしまおう」と思いました。また、進化前と進化後(将棋で言うところの「成る」)をつくり、それぞれ異なる効果を付与することを子どもたちに提案してみました。 子どもたちが創った駒はこんな感じでした(上が進化前、下が進化後)。

小田:回り将棋は、1830年の記録(「嬉遊笑覧」)にも残っている遊びと言われていることから、伝統的な遊びと言っても良いと思いますが、こうして、今の子どもたちなりの楽しみ方にて遊びが継承されていることは感慨深いです。

平山先生:イラストを描いたり遊びを膨らませたりすることが得意な若手の職員さんが力を発揮して生き生きと子どもたちと交流するきっかけになれば良いな、という目論見もありました。これは成功で、関わり合いの中で次々と面白いイラストや効果を持つ駒が生まれていきました。(「相手は2回水を飲んでこなければ駒を触れない」、「相手は私の勝ち確定を認める」など。)

小田:この遊びの具体的な様子は平山先生の5月15日のブログからもご覧いただけます。
 さて、こんな画像も平山先生のブログから見つけ、個人的には素朴ながらも存在感のある絵に心を掴まれた思いです。

平山先生:「きんにくまっちょさん」というイラストは、子どもたちとカードゲーム用のカードを作る中で生まれたものです。それまで模写中心だった5年生の男の子が、少なくとも私の前では初めてこのようなユーモア溢れるイラストを描く姿を見せてくれました。もしよろしければ、詳細は6月20日のブログをご覧いただければと思うのですが、この子の新たな一面を発見できた気がして、とても嬉しい瞬間でした。

霹靂一閃立ち幅跳び 「キマイラ的発想」

平山先生:ある日、子どもたちが『鬼滅の刃』に登場する、雷の力を使うキャラクターになりきり、段ボールなどで作った剣を持ちながら「霹靂一閃(へきれきいっせん)」(超高速で駆け抜けて居合切りをする技)を真似して遊んでいました。私は『鬼滅の刃』を読んでいないため詳しくはないのですが、子どもたちが遊ぶ様子を眺めているうちに「霹靂一閃の勢いで、どのくらい移動することができるのだろう?」という問いが湧いてきました。そこで、子どもたちに「ねえ、霹靂一閃を使ってここからどこまでジャンプできるかやってみない?」という声掛けをしたところ、新しい遊びが始まりました。その名も「霹靂一閃立ち幅跳び」です!

小田:この遊びについても、8月30日のブログでまとめられていますが、名前のインパクトが強すぎますね…(笑)。

平山先生:「雷の呼吸、壱ノ型!霹靂一閃」!なんて言いながら、立ち幅跳びをするわけです。私も子どもたちと一緒にやったのですが、そのうちにだんだんと動きそのものが面白くなり、スロー動画を撮ってみることにしました。跳んでは動画を観返し、また跳んで…を繰り返す中で、子どもたちは自分たちが動画の中の主役になっているという喜びや、スローモーションになることの面白さを感じ始め、だんだんと動きの観察や工夫が活発化していきました。そんなことをしているうちに、それまでは周りで別の遊びをしていた子たちも加わりはじめ、当初の「霹靂一閃立ち幅跳び」を越えた「面白い動きの探求」という新たな文脈の遊びが拡がりました。
 1つの遊びから次の遊びへつながり、拡がって、また新しい遊びが生まれていくというしなやかさこそが遊びなのだと改めて感じます。

小田:「遊び」そのものの性格を示すような発言と思うのですが、おそらくそれと関連していると思われる「キマイラ的発想」についても、ここで教えてもらえないでしょうか。

平山先生:レッジョ・エミリアに関心があることも関係すると思うのですが、私は遊びや学びについて、異質なもの同士が共通のテーマに向かって寄り合うことで新たなものが生まれてくるというイメージをもっています。例えば、大人と子どもが一緒に遊ぶときは「大人が主、子どもが従」あるいはその逆のような縦の関係があるのではなく、両者が並列の立場として、わくわく感を共有しながら「これいいよね!」「こっちも面白そう!」とそれぞれの要素を持ち寄って未知のものを創造していくような姿があると思っています。そのようなプロセスを通して、当初の予測を越えた新しいものが生まれていく…そのような遊び観・学び観を抱いています。

小田:カイヨワ(『遊びと人間』)が指摘するところの、遊びとは自由な活動で、未確定な活動で、非生産的な活動で…ということを思い起こします。

平山先生:日々の学童で生まれる遊びのことを思っていると、ちょうど「化石の復元」のようなイメージが降ってきました。このあたりは詳しくないので間違っていたら申し訳ないのですが、おそらく化石を復元する際には、頭部や手足などの骨、出土された環境などのような多様な要素を試行錯誤しながら組み合わせ、生きていた頃の色や形などを想像・創造していくのだと思います。これまで振り返ってきた遊びも、この「化石の復元」のように、参加者の感性やアイディア、これまでの経験、遊びが生まれる環境、そこにあるものなどの多様な要素が組み合わさりながら、それまでは見えてこなかったものが立ち現れてくるという性質を持っているのではないかと思うのです。そんな「化石の復元」や、同じく異質な要素同士の複合から生まれたギリシャ神話に登場する架空生物「キマイラ」を手掛かりに、より身近に遊びの要素を感じてもらえたらと思い、まだ試作段階ではありますが“ひらめき系お絵かきカードゲーム”「ひらめキマイラ」というものを制作しました。添付されているイラストは、イメージキャラクターです。

小田:この発想をもとに、”ひらめき系おえかきカードゲーム”「ひらめキマイラ」を完成され、印刷会社への入稿作業もあったという、本格的なものだったとのこと。こちらもまた改めて、子どもたちと遊んでみた様子を教えていただけると嬉しいです。

全国の先生方へのメッセージ

小田:まだまだお話し足りないこと、重々承知しているのですが、最後に全国の先生方へのメッセージをお願いさせてください。

平山先生:今回の新型コロナウィルス感染拡大の影響に伴う休校期間、学童保育では約3か月間にわたって朝から晩まで子どもを預かるという状況が発生しました。感染に対する恐怖や責任と隣り合わせで心身ともに限界に近い日々の中で、特定の場や大人が全面的に子どもの育ちの責任を負うことの大変さを痛感しました。それと同時に、いわゆる「コロナ禍」以前の生活では「当たり前」のこととして意識できていなかった、保護者の方々や学校の先生方など、子ども(たち)を取り巻く様々な方々がいてくださることへのありがたさも感じました。それは、日中は学校で過ごす中でいろいろな学びや経験をした子どもたちが、そのストーリーを次は学童にもってきて、それが違う文脈で新たな膨らみをもって展開していき、今度は学童保育の中で生まれたストーリーがご家庭の中で膨らむ…という”動き”の尊さと言って良いかもしれません。
 休校解除後、きっと様々なイレギュラーに満ちた困難な状況にあるかと思います。その中で、子どもたちの豊かな生活や学びを支えてくださっている学校現場の先生方に深く感謝申し上げます。大変な社会情勢だからこそ、多様な要素が混ざり合って新たなものが生まれていく遊びの“動き”のように、子どもたちの思いや願いを真ん中に、それぞれの場や人々が持つ要素や視点、専門性を生かし合う―そんな協働的・共創造的な“動き”が大切になってくるかと思われます。現場が異なるからこそ、“違い”を原動力にして豊かな“動き”を一緒に創らせていただけたら、こんなにありがたいことはありません。

小田:今のお話しは、地域のローカルマガジンづくりから生まれた点字プロジェクトに関するブログでも強く語られていたように思います。学校の先生、学童の先生、点訳の先生、保護者等、みんなで1人の子どもの願いを応援するというマインドを忙しさによって見失われないようにしたいと感じます。
 平山先生、大変お忙しい最中、インタビューにご協力をいただきありがとうございました。

話し手

平山雄大先生 … 埼玉県坂戸市の法人にて、学童保育とコミュニティー・スペースを兼務。
元神奈川県公立小学校教諭。

聞き手/ライター

小田直弥 … NPO法人東京学芸大こども未来研究所専門研究員。

Archiveページへ

編集長
イチ推しタグ!!
  注目タグ!!

学校別の取組

 

インタビュー

▶︎各記事タグ一覧