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2020.06.19 Fri

障害児教育の柱をいつも心に、対策を考える。

北海道の特別支援学校高等部にてお勤めの若手先生(H先生)へのインタビュー。

突然の別れ。北海道ならではの寂しさ。

小田:この度はインタビューをお引き受けいただき、本当にありがとうございます。H先生は、北海道にある知的障害の生徒を対象とした特別支援学校高等部にお勤めとのことですが、もしよろしければ最初に、ご担当されている学科について教えてください。

H先生:私の勤務校には職業学科によって構成される高等部が設置されており、私は現在、学科の作業学習を中心に指導しています。それぞれの学科では、生徒たちの社会的な自立生活を目指し、社会人として自覚をもって仕事に取り組む態度や姿勢、コミュニケーション能力の育成等を目的とした学科での作業学習(実習)や、実際の社会生活場面で生かすことを目指した生活単元学習や各教科の指導を行っています。

小田:先生がお勤めでいらっしゃる北海道は、都道府県単位としては日本初の一斉休校が実施されたエリアとしてとても印象に残っているのですが、当時のことを教えてもらえますか。

H先生:卒業式が3月の1週目に予定されていたので、それに先立ち2月末に各学科での送別会を実施していたのですが、その最中に突然の臨時休校の知らせを受けました。その後の卒業式については、3年生のみを集めて、感染予防対策を尽くしたうえで実施しました。式中ではいくつか歌唱を伴う場面もあったのですが、「歌おう」と生徒に声をかけることはできず、一方で「歌わないで」と言うことも難しいと考えていたため、予め録音された音源を流すことで折衷案としました。それでも式当日、生徒たちの身体は自然と歌い始めるもので、マスク越しの歌声はなんとも言えないものがありました。

小田:ジレンマを抱えつつも、卒業式という一生に一度の機会を保障したいという想いがひしひしと伝わってきます。ということは、先生方同士のお別れ会も中止だったのでしょうか。

H先生:もちろん中止でした。北海道の特別支援学校は学校数自体が少ないこともあり、ひとたび異動となると気軽には会えない場所(時には100km以上離れた所)へ行かれてしまうんですよね。例年覚悟していることではあるのですが、今回は思わぬ形でのお別れになった先生もいて、正直、寂しかったです。

小田:北海道ならではのドラマがあったことを感じます。現在、学校はもう再開しているのでしょうか?

H先生:5月後半に分散登校を開始して、6月からはこれまでと変わらない形での学校再開をしたところです。

学校再開までの道のり

小田:学校再開に向けてはたくさんの配慮が必要だったと思います。具体的にはどのような検討をされたのでしょうか。

H先生:まずは教科や指導形態ごとに先生方が集まり、「この活動はどこまで実施しても大丈夫なのか」「この活動は密になるのではないか」等の疑問点を挙げ、教務部と共有してから、その案を北海道教育委員会からの通知と照らし合わせて、学校としての判断を決定していく、というプロセスをたどりました。

小田: H先生は音楽科を基礎免許に持っているということで、音楽の授業もメインの立場でご担当されていることと思います。音楽科としては、どのような判断をしたのでしょうか。

H先生:制限される活動が多いことと、音楽の授業でのクラスター感染を避けたいという想いから、音楽の授業をメインで担当する先生方全員で考えた案を教務部に提案することとしました。具体的には、歌唱活動は当面避け、二学期以降様子を見て判断すること、吹奏楽器の使用は基本的に避けること等です。

小田:歌唱活動における感染リスクについては、ドイツの研究結果を目にすることが多いのですが、一人ひとりの間隔を何メートル確保することが望ましいのか、マスクやフェイスシールドの効果の有無、推奨される並び方等が少しずつ言われている一方で、まだまだ安定した情報にまで昇華しきれていない印象を持っています。未知な部分が多い感染リスクについて注意を払いつつ、主体的な提案を作成された点は、これから実際に授業をする先生ご自身の1つの安心材料にもなっていくように思いました。
子どもたちに視点を変えると、休校期間中、先生から生徒に向けた課題等は出していたのでしょうか。

H先生:プリント課題の配布は行っていました。ただ、これについては考えさせられる点もありました。

小田:詳しく教えてもらえますか。

H先生:特別な支援を要する子どもたち、特に私たちの場合は知的障害のある生徒たちに対して、「このプリントを家でやったから既習事項とみなす」ということが果たして良いことなのか、「学習ってこういうことなのか?」ということです。例えば作業学習として「おしぼりのたたみ方」ということを扱うのであれば、おしぼりを生徒の目の前に置いてあげれば日頃の実習の積み重ねによって身体が覚えているので簡単にたたむことができます。しかし、「おしぼりの正しいたたみ方を選びましょう」というプリント課題にした途端、文章や図を正確に読み取ることも同時に要求され、そういった部分で難しさを抱えている生徒は混乱します。そうすると、子どもたちからすると「いつもできているはずなのに分からない」と、自己肯定感が下がることにつながりかねませんし、保護者の方も気にされてしまうかもしれません。

小田:休校中の課題については、「紙という媒体の特性を活かした学習活動を考え、提供することで学びをとめない」という動きを一側面として感じていたのですが、それとは全く違う次元で特別支援教育における休校中の課題の在り方を考えていかなければいけないと強く感じました。

学校再開後、「密」への対策とバランス

H先生:学校再開に際しては、活動の内容を変えてしまうことは難しいと判断したので、「使用教室の再調整」や「活動単位の細分化」を行いました。具体的な例でお伝えすると、特別支援学校の場合は1時間目に体力づくりや自立活動のような活動を行うことが多いのですが、これまでは特別教室、例えば視聴覚室でやっていたものをもっと広い部屋で、かつ学年ごとに分けて実施することで、なるべく密を避けることができるよう調整しました。

小田:個人的には、今のこの状況に対して、生徒が精神的な不安を抱えているのかどうかも気になります。

H先生:言葉では示さないですが、あると思います。久しぶりに登校してきたと思ったら髪が伸び切ってしまっていて、その生徒は床屋に行くのも怖いと感じていたようです。そのような姿から伺える不安というのはありますね。

小田:心のケアを意識した取り組みはされているのでしょうか。

H先生:生活単元学習の中で、感染症についての授業を扱いました。そこでは、手洗いや咳エチケットの大切さを知るほか、「1メートルってこれくらいだよね。2メートルってこれくらいだね。」ということを学ぶ内容でした。

小田:生徒の不安軽減につながるとても大切な取り組みだと感じます。

H先生:「障害がある上での困難を少しでも軽減していき、卒後の自立生活により近い、実際的、具体的な学習活動をしよう」というのが障害児教育の柱になってくると思うので、そのような点から考えると、感染症の授業というのは実生活をもとにした学習活動、と言えるのかもしれません。

小田:学校という特性上、どうしても密が避けられない場面もあるかと思うのですが。

H先生:私の勤務校には様々な生徒がいるので、障害の重い生徒の場合は移動の際に手を引いたりと、教員側から密な場面を作らざるを得ないこともあります。教員として、密を避けることの重要性は理解している一方で、様々な実態の子どもたちの学びを個別に保障することとのバランスも考えなければいけません。

教育活動をさらに安定させるために

小田:現在のお困りごとや、懸念等はあったりしますか?もしかすると、この記事を見てくださっている企業の方や大学の先生等がなんとかしてくれるかもしれません。

H先生:今、第二波のことも念頭入れて、社会全体としてはオンライン学習について関心が高まっていると思いますが、個人的には今回のコロナによる休校で、特別支援教育というのは福祉の側面がとても大きいのだと痛感したところです。それは、重度の生徒の場合は学校が休校になると家庭もケアに追われ、普段どおりの生活が非常に難しくなってしまうこと、そして、家庭のそういった面をサポートする障害児保育の事業所などが影響を受けてパンクしてしまっているのを目の当たりにしたことが大きいです。福祉の充実に向けた動きへ期待したいです。

全国の先生方へのメッセージ

小田:最後に、全国の先生方へメッセージがあればいただきたいです。

H先生:見通しのもてない日々が続いていますが、心と身体の変化に気づいて、自分の身体を大事にしてほしい。子どもの前に出ちゃうと頑張りすぎちゃうのが先生という存在だと思うので。

小田:H先生、お忙しい最中にインタビューにお時間をいただき、本当にありがとうございました。

話し手

H先生 … 北海道にて特別支援学校高等部教諭。

聞き手/ライター

小田直弥 … NPO法人東京学芸大こども未来研究所専門研究員。

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